Squirrel Bait、Slintに在籍していたBrian McMahanによる新しいグループ、The For Carnationの初のフルアルバム。これまでの"Fight Songs EP" "Marshmallows LP"はMatadorからだったが、今回はTouch and Goからとなっており、トータスのジョン・マッケンタイアやブリーダースのキム・ディールらも参加している。 一聴して驚くのは、異常なまでの遅いテンポと、全編に漂う静けさだ。にも関わらず、暴力的な何かを感じさせるという、不可解なアルバムである。ジョン・マッケンタイアのプロデュースによる、それまでの作品に見られない重低音と効果的な音響効果は、聴き手の意識を音像の深奥へ引きずり込む。 ギターバンドのフォーマットを取りつつも、ギターリフは一切用いず、ドラム+ベースが曲を引っ張り、ギターは音響効果的な側面だけに使用されているため、無駄な雑音を一切削ぎ落とした音像となっている。そこで際立つものは静けさなどではなく、むしろ純粋な形で抽出された暴力性だ。 その鍵を握ると思われるのが、Brian McMahonのヴォーカルである。彼はありがちなロックバンドのそれとは大きく異なり、トム・ウェイツやマッシブ・アタックを髣髴させる、つぶやくようなスタイルだ。が、音像と同様、こちらも決してイージーに聴けるという類のものではない。 「坊や 君のお父さんはどこへ行ったの? 町へのバスは何日も前に出て行った お父さんはどこへいったんだろう...」 (“A Tribute to”より翻訳のうえ引用) 鋭利なナイフのような詩が、次々と聴き手の意識にぐさぐさと突き刺さってくる。そして伝わってくるのは、言いようのない悲しみである。深夜に部屋でひとり、ヘッドホンでじっくり聴きこむのに相応しいアルバムだ。 |